作り手の罠

エンターテインメントを作っていると、ある癖がつく。時間を長く取りたくなる。素材を詰め込みたくなる。予算をかけた分だけ、尺を使いたくなる。

これは作り手の論理だ。観客の論理ではない。

観客は「長さ」を評価しない。「密度」を評価する。3時間の体験が「もっといたかった」になることもあれば、90分の体験が「長かった」になることもある。その差は時計ではなく、変化の頻度 にある。

30秒という数字

USJで演出を担当していた頃、チームで一つの検証を繰り返した。「観客の注意が維持される限界は、何秒か」。ゲストの視線追跡、体験後のアンケート、現場スタッフの観察。何度試しても、答えはほぼ一定だった。

30秒

30秒に一度、何かが変わらないと、人は別のものを探し始める。視線が泳ぎ、スマートフォンに手が伸び、連れの顔を見る。それが「飽き」の始まりだ。

この数字は、映像演出でも、空間体験でも、ライブパフォーマンスでも変わらない。人間の注意のリズムが、そこにある。

変化こそが設計だ

30秒ルールを知ると、設計の考え方が変わる。「何を見せるか」より「いつ変えるか」が先になる。

視覚が飽きたら聴覚を刺激する。音が大きくなった後は、静寂を置く。明るい空間の後に、暗い廊下を通す。動きの激しい場面の後に、止まった時間を入れる。変化の種類 は問わない。変化の 存在 が、観客の注意を引き続ける。

演出は、作った瞬間から古びる。
変化を設計した者だけが、観客の注意を引き続ける。

これは技術論ではない。観客への敬意だ。人の注意は有限で、貴重だ。それを30秒単位で丁寧に扱う。それが、設計者の最低限の仕事だと思っている。

NYXが空間を設計するとき、必ず「変化マップ」を作る。体験のタイムラインに、変化の種類と頻度を書き込む。美しい空間を作ることより先に、それをやる。

— Shoichiro Tsuno · CCO, NYX